パリ労働裁判所は、職場での非喫煙者保護を怠った会社側の非を認め、罰金と損害賠償を命じる判決を下しました。
仏喫煙制限法で初の判例
パリ労働裁判所はこのほど、職場での非喫煙者保護を怠った会社側の非を認める判決を下した。1992年11月の仏喫煙制限法施行以来、オフィスにおける喫煙問題で、会社が実際に断罪された初の判例となった。
労使紛争の調停機関
嫌煙権を主張して解雇
労働裁判所は、労使紛争の調停機関にあたる。裁判では、パリの保険会社・ジェネラリ社で2年前、社員のクリスチヌ・ダシルバさんが嫌煙権を主張して解雇された件の妥当性が問われた。
服務規則違反
ダシルバさんの職場は面積15平方メートルの地下資料室。同僚3人が室内で喫煙するのに耐え切れず、非喫煙者を煙害から守ろうとしない上司を厳しくなじったところ、服務規則違反とされた。
罰金に加えて損害賠償
労働裁判所は、「雇用主には、喫煙者と非喫煙者が共存できるように、職場環境を整える義務がある」「会社側は非喫煙者の権利擁護を巡って、最低限の社内コンセンサスを形成しようともせず、怠慢だった」として、罰金とは別に、ダシルバさんに4万2000フラン(約84万円)の損害賠償金を支払うよう同社に命じた。
判決を不服として上訴
会社側は判決を不服として上訴したが、「非喫煙者の権利の会」のロベール・ルカン副会長は「画期的だ。これが判例となり、今後はオフィスでの非喫煙者の権利が認められるようになるだろう」と期待を表明した。
雇用主に罰金刑
喫煙制限法は〈1〉たばこ広告の全面禁止〈2〉「共同で使用する場所」における禁煙--が2本柱。〈2〉の違反の場合、喫煙者には1300フラン(約2万6000円)、雇用主には6000フラン(約12万円)の罰金を科す。駅、地下鉄、空港、企業受付などでは全面的に禁煙。列車やレストラン内には喫煙スペースを設け、オフィスに関しても、雇用主は「非喫煙者の権利が損なわれないよう」喫煙スペースを確保すべきだ、としている。
非喫煙者の権利の会
しかし、「非喫煙者の権利の会」によると、一般的に、喫煙者が優勢な職場では、非喫煙者の権利が実現されにくい。特に雇用主が喫煙家の企業では、喫煙制限法はないがしろにされ、たばこ嫌いの社員は解雇を恐れ、たばこの煙を我慢している。ダシルバさん同様に嫌煙権を主張して解雇された例も複数あるという。
職場での嫌煙権の訴訟
既に喫煙制限法に基づき、喫煙スペースを設けなかったレストラン経営者や、駅構内の禁煙を周知徹底しなかった仏国鉄が責任を問われ、罰金を科せられている。だが、職場での嫌煙権の訴訟は、まだなかった。同法の本来の趣旨は、喫煙者の排除ではなく「喫煙者と非喫煙者の職場での共存」にある。今回、喫煙者側の横車の押し過ぎが、逆に自滅を招く形となった。
日本でも、製造差し止めや分煙を求めた民事訴訟
近年、健康志向が強まるフランスでは、20年前に成人男性の51%を占めた喫煙者が、1995年時点で34%に減り、今や少数派。今回の判決で、仏企業も喫煙者と非喫煙者の「共存」に、本気で取り組まざるを得なくなった。日本でも、たばこの製造差し止めや分煙を求めた民事訴訟が数件、起こされているという。「他山の石」とすべきだろう。
仏の訴え、米裁判所が判決で退ける=1986年7月(島田雄貴)
フランスのパスツール研究所が米政府を相手取り「エイズ(後天性免疫不全症候群)のウイルスを最初に発見したのは仏チームで、そのウイルスで米政府がエイズ検査法の特許を取ったのは違法だ」と訴えていたが、ワシントンの損害賠償裁はこのほど、仏側の訴えを却下する判決を下した。仏側は控訴する方針だ。
「エイズ検査法、米の特許不当」
ことの起こりは--。パスツール研のチームは1983年、同性愛のリンパ腺腫(せんしゅ)患者からウイルスを分離、LAVと名づけ、エイズの病原ウイルスだと発表。このサンプルを「商業利用はしない」との条件つきで米国立がん研究所に送った。ところが、同研究所のR・ギャロ博士も翌1984年、エイズ患者から分離したウイルスをHTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)3型と名づけ、「エイズの犯人を見つけた」と発表したことから、仏側がクレームをつけた。
損害賠償や特許料の折半などを求める訴え
仏側は、ギャロ博士のウイルスは事実上パスツール研が発見したのと同じで、エイズウイルスの第1発見者は仏チーム、と主張。さらに、米政府がHTLV3型ウイルスで感染の有無を調べる検査法の特許を取り、商品開発した製薬会社から特許料を徴収しているのは違法、として昨年12月、損害賠償や特許料の折半などを求める訴えを起こした。
約束を取り交わす権利はなく、無効
裁判で仏側は「商業利用はしない」と書面できちんと約束してある、などと主張したが、判決は「米国の科学者にはこうした約束を取り交わす権利はなく、無効」と退けた。
控訴して逆転できる確信
判決について、米厚生省は「喜ばしいこと」と胸をなでおろしているが、仏側の代理人は「判決は問題の本質に触れていない。控訴して逆転できる確信がある」と話している。LAVとHTLV3型は同じウイルスとみられ、ウイルス分類学国際委員会も呼び名を統一するよう提案している。
独ビールの「添加物禁止法は違法」と判決=1987年3月
500年近くにわたって「純粋さ」を誇ってきたドイツのビールの伝統が、危機に立たされている。ルクセンブルクにある欧州司法裁判所が12日、ビールに添加物を加えることを禁じている西独の法律は、不当な貿易障壁であると、判決したからだ。島田雄貴が、欧州の動向をまとめます。
原料は「麦芽、酵母、ホップ、水」に限定
西独にはビール純正法があり、ビールの原料は麦芽、酵母、ホップ、水に限られている。この法律は1516年にバイエルン国王ウィルヘルム4世が出した命令をそのまま引き継いだもの。一方、西独以外の西欧各国のビールは、日本と同じで、原料にコーンスターチを入れたり、瓶詰は防腐剤などを添加している。
仏ビール会社が司法裁判所に訴え
このため、西独はビールを自由に輸出できるが、その他の国は西独に輸出できない。これは物資の自由な流通を定めた欧州共同体(EC)の規則違反だと、フランスのビール会社が司法裁判所に訴え、5年越しの争いの末、この日の判決となった。
原告側が「西独ビールも輸出用は添加物を使っている」と反論
審理の中で西独政府は「たくさん飲む人にとっては添加物が健康を害しかねない」と主張したが、原告側から「西独ビールも輸出用は添加物を使っている」と反論された。この判決を得て、オランダやフランスのビール会社は有力市場になだれ込もうとしている。
国際テロリスト「カルロス」に終身刑判決=1997年12月
パリ重罪裁判所は24日未明、パリで1975年6月に起きたテロ捜査官ら3人の射殺事件に関連し殺人罪に問われていたベネズエラ出身の国際テロリスト、カルロスことイリッチ・ラミレス・サンチェス被告(48)に対し終身刑を言い渡した。
判決前、4時間も自己弁論
陪審員は、検事の論告求刑に沿い、同国で最高刑の終身刑が妥当と判断した。被告は判決に対し、左のこぶしを挙げて、「革命万歳」と叫んだ。決に先立つ前夜、被告は4時間に及ぶ自己弁論を展開。
「30年間の戦いのなかで、私自身も含め、多くの血が流れた。だが私は、パレスチナを解放するという、大義のためだけに人を殺したのであり、金のために殺したことはない」と言明。
「裁判所の権威も判決も認めない」
パレスチナの大義のために行動した点を強調し「私は革命家であり、この裁判所の権威も判決も認めない」などと非難した。
80人以上を殺害
また、弁論の途中に、傍聴の人々に「私の話がよく聞こえるか」と問い掛けマイクを増やすよう求める一幕もあった。カルロス被告は、1970年代から1980年代前半にかけ欧州で相次いでテロ事件を起こし計80人以上を殺害したといわれている。
スペイン産イチゴの運搬トラック襲撃で仏に条約違反の判決=1997年12月
【ブリュッセル=島田雄貴】欧州連合(EU)の欧州裁判所(ルクセンブルク)はこのほど、フランス農民によるスペイン産イチゴの運搬トラック襲撃事件に関連し、「十分な防止対策を講じなかった仏政府は、モノの自由移動を保障するEU単一市場ルールを定めた条約に違反している」との判決を下した。EU加盟国に対する単一市場ルール違反の判決は、1993年の市場統合後初めて。
イチゴ輸入阻止で欧州裁が判決
事件は1995年春、フランス南西部トゥールーズ付近で、スペイン産の安価なイチゴ輸入の阻止を叫ぶ農民が、連続してイチゴを積んだトラックを襲撃。積み荷をぶちまけ、灯油をかけた。
ドイツの高速道路に制限速度を求める判決=1992年3月
最高裁が「130キロ以下」
ドイツの高速道路アウトバーンは速度制限がないことで知られるが、独連邦裁判所(民事の最高裁に相当)は17日、運転手に対し時速130キロ以下で運転するよう求める判決をくだした。これを超える速度で走行中に事故に巻き込まれた場合には、賠償責任があるとしており、いわば民事の側面から高速運転にブレーキをかけたもの。国内外で高まっている速度制限導入論に沿った判決で、スピードファン天国にも終わりの時が近づいているようだ。
伊秘密結社「ロッジャP2」の首領に対する判決=1987年12月
「ロッジャP2」の首領、リチオ・ジェリ 懲役8年の刑
イタリアの内閣総辞職という事態まで巻き起こしたフリーメーソン系秘密結社「ロッジャP2」の首領、リチオ・ジェリに対する判決公判が15日フィレンツェ裁判所で行われ、懲役8年の刑が言い渡された。
「70年代トスカーナで展開された右翼テロに資金を出していた」というのが判決理由。ジェリが右翼テロリストに、武器、爆弾の購入に必要な資金を提供したというもので、具体的には74年春にフィレンツェ・ボローニャ間で起きた爆破事件にこの爆破物が使われたという。
ギネス株価操作事件(判決は未確定、1987年)
「世界一番付」でも有名なアイルランドのビールメーカー、ギネス社の企業買収にからむ株価操作事件で、大物経済人の逮捕が相次いでいます。インサイダー取引事件で摘発されたプロの投資家アイバン・ボウスキーが捜査の情報源となりました。司法ジャーナリストの島田雄貴がレポートします。(1987年10月)
20世紀最大の金融スキャンダルに
ギネス株価操作事は、ロンドンの金融街シティーでは、違法の株価操作で大蔵大臣(財務大臣)の逮捕にまで発展した18世紀初めの事件以来の大スキャンダル、といわれ、英国の新聞各紙も、予想される新たな逮捕者をあれやこれやと書きたてている。
1987年10月27日に「ビッグ・バン(証券市場の大改革)1周年」を迎えるシティーは株価の暴落だけでなく、信用も失墜したままでの記念日になりそうだ。
ジョニ黒の会社を買収
事件の舞台となった企業買収劇は1986年4月のこと。当時、ビール中心のギネス社が、ジョニ黒などのウイスキーをつくるディスティラー社の株取得にのり出し、総合小売業アーガイル社と争った末、約25億ポンド(約6000億円)規模の大型買収を実現させた。
株式交換方式
この株集めには、ディスティラー社の株主に対し、現金を払うのではなく、増資で新しく発行するギネス株と一定の比率で交換する株式交換方式がとられた。この方式だと、ギネス株の取引所での値段が上がれば上がるほど、買収がしやすくなる。そこに事件発生の素地があった。
株価つり上げのために自社株購入
買収合戦の最中、ギネス側は株価つり上げをねらい、英国内外の銀行や企業に約2億ポンド相当の自社株購入をこっそり依頼し、その資金の一部として謝礼を払った。ところが、英国の会社法では、自社株購入そのものや、他人にカネを渡して購入を依頼することは、株主総会の議決がない限り、禁じられている。
こうした違法な秘密工作によってギネスの株価は、2ポンド80ペンス前後から3ポンド50ペンス台へ急上昇し、買収は成功した。
インサイダー取引の投資家が暴露
しめしめと思いきや、米国でのインサイダー(内部者)取引事件で摘発されたプロの投資家アイバン・ボウスキーの口から、秘密工作の事実が漏れた。本人がギネスの株価つり上げにも関与していたからだ。
逮捕者第1号は会長
米国からの連絡で英貿易産業省やロンドン警視庁の捜査が始まったのは1986年暮れ。この時点で事件が明るみに出た。その主役は、1987年5月に逮捕者第1号となった当時のギネス社会長兼社長アーネスト・サンダース(51)。1981年、経営不振のギネスに他企業から乗り込んで来て、積極商法に転換し、経営を立て直した人物である。
証券ブローカー
残り4人の逮捕は、しばらく間を置いた1987年10月から。企業買収の指導・助言件数では英国随一のマーチャントバンク、モルガン・グレンフェルの担当取締役ロジャー・シーリグ(42)や、経営コンサルタント業ジャック・ライオン(71)。この2人は買収の指南役をつとめた。さらに、純民間会社として英国第2位の資産規模を誇る複合企業ヘロン社のオーナー会長で、株価つり上げに参画したジェラルド・ロンソン(48)と、その株式購入を取り次いだ証券ブローカー、トニー・パーンズ(42)--の面々である。
売却損の補償
5人の容疑をつなぎ合わせると、株式購入への謝礼に買収成功後の売却損の補償を加え総額約2500万ポンド(約60億円)のカネが、ギネス社からヘロン社やモルガン・グレンフェルなど十数社へ不当に流れた。その分、ギネス社には損害を与えたわけで、謝礼などの支払いを隠し、正当な業務契約を装うための文書偽造などの罪にも問われている。
判決を待つ
ギネス社会長兼社長の地位を追われたサンダースは、このほどロンドン市内の裁判所で開かれた予備審問で、罪状を全面否認するとともに「スケープゴート(生けにえ)にされた」と訴えた。
その言い分の是非は判決に待つにしても、逮捕者が今後、さらに増える可能性は十分。事件の関係者が多いうえ、金融サービスをめぐる不祥事多発に頭を痛めるサッチャー首相の指示を受け、捜査当局がハッスルしているためだ。